13

頭には跳ねっ毛。髪は肩に届くくらいの黒セミロング。

目にやる気が無い、でも可愛い少女がいた。

諸事情により、彼女との関係は省くが

まぁご自由に邪推してくれて構わない。

どっちにしろ僕はもう平和に過ごせたら良い訳なんだけども。



僕は、夢を見ていた。

夢の中の彼女は、何故かどこか違った。

その表情を見てすぐにわかった。

彼女は、今の彼女じゃないという事に。

「おはよう。」

「あ・・・おは・・よう。」

まるで久しぶりにあった人のような挨拶を返してきた。

驚いているような、困っているような。

でも、夢の中の僕は些細な事に気付かない、気付けない。

「どうしたんだ?早く行こうな。」

僕は彼女の手を握り、行こうとする。

一体何処に行こうとしているのか、本当はわかっていないというのに。

彼女はそれに驚いて身を怯ませながら、でも少ししたら手を握り返してくれた。

いつもは、無理やりにでも僕を連れて行くような彼女なのに、

その雰囲気の違いがどうにも僕の気にかかった。

「あの・・・ね?」

彼女が僕の隣で言った。

「いつもありがとう・・・って。そう言いたかったんだと思うよ。」

僕は、何故か何も言えず彼女の話を聞いていた。

「変わっても変わらずに一緒に居てくれて・・・。」

「私は、それでもありがとうなんて言える性格じゃなくて・・・。」

「でも、今みたいに気兼ねなく話す事の出来るこの関係も好きだよ・・・。」

「本当に、ありがとう・・・。」

そう言った彼女の姿が、景色が、全てが薄れていく感覚を僕は受けた。



あぁ、これは目覚めなんだと。僕を夢から覚ます光なんだと。

もっと、話をしていたいと思う僕の意識を無視するかのように、

僕はその世界から隔離されたのだろう。



「おはようございます♪」

起きると、夢の中の少女をコンパクトサイズにしたような子が僕を起こしていた。

・・・あぁ、妹さんか。

「おねーちゃんがさっき部屋にいたけど、まだ寝てたんですか?」

彼女が・・・?

眠い頭で考えてもよくわからなかった。

「もう・・・ねぼすけさんは良くないんですよっ?お先行ってますねっ。」

そう行って出て行った妹さんを見送りながら、僕はある事を考えていた。

部屋に入ったという彼女の事。

あの、夢の中の台詞は本当に夢の中のものだったのだろうか。

もしかしたら、隣で僕に話しかけていたのではないか。

そのような考えから更に考えが一人歩きしていく。

いつも彼女は、本当は本心を隠して生活しているのではないか。

もしくは、今の彼女が本当の本心なのか。

僕にはそれがわからなくなった。

眠い頭じゃこれ以上考える事は出来なかった、したくなかった。

顔を洗う、どうにもすっきりしなかった。

僕は家を出る、そこに彼女がいた。

「ねぼう、減点1、なんだよ。」

そこには最近見慣れた笑顔をしていた彼女の姿があった。

そうなのか。

それを見て、僕は一つ確信した。

そう、どっちでも僕は構わなかったんだ。

もし、今の彼女の姿が演技だったとしても、

それが本心だったとしても、

彼女がそれを僕に見せようとしているのなら

騙されるのも、悪くは無いと。



「ごめん、遅れたね。」

僕は日常を装うことにした。

彼女がそれを望むなら、僕も全力で騙されてやろうと。

「お詫びに、今度何か奢るからさ。」

そして彼女は

「・・・ありがとう。」

ほとんど聞こえない声で、そう言った。

それは、僕の言葉に対して言った言葉だったのだろうか。

それとも、彼女の意思で出た夢の中と同じ意味の言葉だったのだろうか。

僕は、朝空の下を駆けながらそんな事を思っていた。


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