32

頭には跳ねっ毛。髪は肩に届くくらいの黒セミロング。

目にやる気が無い、でも可愛い少女がいた。

諸事情により、彼女との関係は省くが

まぁご自由に邪推してくれて構わない。

何故か、僕は、彼女と、海に、向かって、いる。



海。日本語で言うと海。英語で言うとシー。

その他の外国語は知らないので例えようもないけれど、海である。

正確に言うならば、車の中から確認出来るほどに海が近づいてきたと言うのだが。

「サプライズだよ。」

隣でそういう声も、若干喜びにあふれているような気がするとかしないとか。

ただ、急にそんな事を言い出す彼女の方がサプライズに思えて仕方ない。

「サプライズだね。」

けれど話題を合わせる。いつも通りだけど妙に懐かしい感じがした。

そんな相槌を打っておきながら、サプライズってどういう意味だっけ

なんていうど忘れをひた隠しにしておき、僕らは

車を止める場所を探すことにした。

「どこだーちゅーちゅー、ちゅーりんじょー♪」

なんとなく妹さんの真似をして歌ってみた。

「うわへたくそだよ。」

1秒で批判が来た。

「・・・。」

僕は歌うのをやめた。そんな無碍に反論しなくたってさぁ。

センチメンタルまっしぐらの僕のハートはズキズキだった。

「ちなみに駐輪場じゃなくて駐車場なのさよ。」

その語尾は何なのさよ。



「ちゅーしゃ、ちゅーしゃ、注射場はどこだよー。」

そして今度は彼女が歌いだした。

あからさまに漢字が間違っている。

僕か?僕がつっこむべきなのか?



「ついたー!」

「ついたよー。」

「ついたー!」

「ついたよー。」

二人して駐車場についた喜びを交わす。

「いやはや、これでこそ夏って感じだよ。」

暑い車の中、よくここまで来れたと思う。

彼女が言う。

「じゃあ駐車場についたことだし、帰るよー。」

・・・あれ?海は?


[戻る]