プロローグ

 16歳の誕生日に父親から贈られたのは、
耳につける部分の裏側に「L」と彫られたイヤリングだった。
 デザインとしてはどこにでもあるようなもので、
何の石かは分からないが透明な緑の宝石が、8面体にカットされたものであった。
 当時の私としては、こちらの希望を聞かれることも無く渡されたというプレゼントに対し、
何故イヤリングなのだろうと思った程度であったので、
それはありがたくも箱にしまわれたまま、
机の引き出しの奥底へと押し込まれたのだった。
 その誕生日の後は慌ただしく生活が変化することになったので、
箱の中身はしばらく箱と一緒に机の中で眠る運命となった。
 それが何を意味するかを知るには、再び箱をあけ、
さらにそこから時間が経った後のことである。


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