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彼のポケットからはノートの一部と思われるものが複数枚出てきた。
ばらばらのそれは、1枚1枚の意味がよく分からないものが羅列してある。
内容をまとめるとこんな形だった。
ゲームとなんらかわらない、ただの遊びだということ。
やめる方法はあるということ。
校長室には何かがあること。
の3つである。他にもノートの断片があるような事をほのめかす文章も見つかった。
なにが、ゲームだ。ボクは憤る。
舌打ちをすると、元来た道を引き返した。
絶対に、諦めない。
新たな誓いを胸にボクはすべての校長室を見て回ることにした。
半分ぐらい見て回っただろうか、いままで見たすべての校長室は中々無残な光景が広がっていた。
きっと彼が調べて回ったのだろう、点々と血の後が続いていた。
罠が貼ってあったのだ。おぞましいほどの。
子供が残酷に蟻や蛙を殺すのと同義だといわんばかりのむごたらしい罠の数々がしかけられていた。
鋭利なものから目に見えないガスを発射する装置などの残骸がボクを迎えてくれた。
そのなかには、きっちりと両腕も転がっていた。
それを彼の元に返し、ボクは1階の探索を続行しようとした。
そのとき、携帯が鳴ったのだ。
電話だ、マナーモードであったためバイブレーションの種類で判断すると、ボクはその電話を取った。
「もしもし……?」
そんな僕の言葉にかぶさるように
「良かった、繋がった!」
聞きなれた声が返ってきた。
東だった、その口調には少しだけ安堵と落ち着きを感じる。
「新谷だよな、今どこにいるんだ!?」
「どこ、って……」
周りを見回す。
どこか異質なこの空間に疑いを感じながらも、自分の記憶と照合させて
「入り口の、昇降口近くの、廊下に」
と言いかけたところで、
「そうか、わかった。今そっちに行く、俺が間違ってたんだ、逃げるのが大事だっ」
場所を頼りにしたのか、走りながら喋る東の声が聞こえた。
慌てているのか意味が少しつかめない。
「意味がわかんないよ、落ち着いて」
「すまん、わかったんだよ、このルールが!」
その言葉を聞いて僕も意味を理解した。
「ルールって、まさか」
「そうだよ、お前が言ってたのはこの事だったんだな、すまない」
この事……東の言ってることを頭の中で反芻する。
もしかしたら僕よりも沢山の事を知ったのかもしれない。
「しかし、、こは何処なん、、、いつ―」
「え、何て?」
「―こ、が、、、」
急にノイズが濃くなった。
「東?どうしたんだ?」
返答はノイズだけ、他にはもう何も聞こえなくなった。
そしてしばらくして、ツーツーという無情な切れた音が耳に伝わった。
「……圏外にでも入ったのか?」
圏外、という言葉を口に出して思った。
はたして本当に圏外などというものだったのか。
それすらも何かに掌握されてるような、躍らされてるような
そんな形容しがたい不快感を感じざるを得なかった。
ただ、ノイズの中で唯一聞き取れた言葉が
「―俺たちは、巻き込まれたんだ」
そんな東の声が。
僕の頭の中をかき乱していた。
そんな中、ある人影がそう遠くない場所を歩いていた。
その人影は、新谷達よりも早い段階で「もくじ」と書いてあるものを見つけ
とある部屋に転がっていた両腕から目を逸らし、
そして今、冷静な思考を張り巡らして動いていた。
「大体、ノートに『もくじ』と書いてある時点でおかしいからね」
そんな些細な情報から、その人物は続きがある事を推測して
その続きを得るためには罠にかからなくてはいけないという
代償を予測していた。
きっと自分の他に7人もいたあのメンバーの中で一人くらいは
それを集めに回っているかもしれない。
自分が行動を起こすのはそれからでいい。
そしてその代償は、命にかかわるものだろうか。
それともこの薄れていく「記憶」にかかわるものだろうか。
そこまで考えて思う。
こんな非現実的思想、いつもの自分なら鼻で笑い飛ばしていただろうに。
大分、自分も参ってるのかもしれないね、と思い。
「とりあえず、安全な場所、かな」
その足は近くの階段から上に向かっていった。
近くにいた新谷や、そこに向かってる東、その他の「彼ら」にも
偶然なのか、不幸なのか出会うことも無く。
「『禁じられた遊び』?」
そのような曲を聴いたことがある。
「そうだ、今日は月とか陰陽とか、いや風水だったかもしれないが
とにかくそれに該当する厄日……いや、選ばれた日なんだ」
僕の元についた東がそう言った。
「これ自体は数ヶ月に1度あるか無いか、らしいんだが」
そこで一旦区切って話を続けた。
「その日には決してやってはいけない遊び」
「学校に忍び込んだ、こと?」
「いや、そこまではわからない」
そうかぶりをふって東は
「だが、それをしてしまうとどうなるか、それはわかった」
思い出すかのように語り出した。
「死ぬまで遊び、人形になって、月夜の元で壊れる」
まるで何かのフレーズか、と思った。
だがそれは彼が知りえた事だった。
淡々と告げていき、僕もそれを聞いた。
「人形は人がいないと遊ぶことは出来ない」
「だから人が一人になるまで遊びは続く」
「人形遊びを止めたいのなら、本を読んで遊べ」
「少女の我侭が破いた本を集めて遊べ」
一気にまくしたてるように東は語った。
「春日さんがいなかったら、きっと俺はこんなに冷静になれなかったし
ここまでわかることもなかったんだろうな」
下を向きながら東はそう言った。
一体彼と彼女の間にも何があったのだろうか。
だが、何故か東にそれを聞くのは躊躇われた。
春日さんが、今何故東の隣に居ないのか。
それを考えるだけでも十分過ぎるからだ。
「とりあえず図書室があった場所で黒魔術とかに関する本を見つけたんだ」
あった場所、つまり今では校長室、だろうか。
「凄かったよ、まさかそんな本があるとは思わなかった。好奇心でそれを覗いたんだ」
そして天井を見た。
「それも正解だったのかどうか、今日のことが書いてあった時は驚いたさ」
その視点は居ない春日さんを見てるのだろうか。
「でもな、見てると、何かの気配を感じたんだ、まるで本から呼ばれたような」
その時を思い出すように、東は表情をきびしくさせていった。
「いや、あれはヒントに対する代償か?罠だったのか?」
何を感じたのか、強い感情がにじみ出ていた。
「あんな化け物が出てきた時点で、俺はもうダメだった、はずなんだ」
失笑にも似た笑みを浮かべて、東は下を向いた。
「もうあそこには行くな、行っちゃいけない」
最後に諭すように僕に言った。
つまり、春日さんが東を助けるために、だろう。
「確認はしてないんだ、彼女が生きてるかもしれない、けど」
東は震えていた。
「あんなのから、逃げられるわけ、ないだろ……っ!」
そして最後にその場に座り込んでしまった。
僕もそんな東にかける言葉が思いつかなくて、しばらくの間
無言が二人の空間を支配していた。
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